熊本地方裁判所 平成元年(行ウ)4号 判決 1989年12月21日
原告 甲野太郎
被告 一の宮町農業委員会会長 古閑慶次
右訴訟代理人弁護士 野口敏夫
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、昭和六三年一〇月一七日付一の宮農委第四五〇号にて行った、熊本地方裁判所宮地支部で行われる農地競売入札について原告が不適格者である旨の処分を取り消せ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の申立)
主文同旨
(本案の申立)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は被告に対し、昭和六三年一〇月六日、熊本地方裁判所宮地支部において同月一七日から同月二四日までの間に行われる農地の競売入札に必要な農地買受適格証明書の交付を申請したが、被告は、同月一五日、原告を不適格者であるとする旨の通知を行った。
2 よって、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 被告の本案前の主張
被告において原告が農地の買受適格者である旨の証明を出さないことや買受適格者でない旨の通知を行うことは、単に事務的な措置に過ぎず、抗告訴訟の対象たる公権力の行使に該当しないから、本件訴えは不適法である。
三 請求原因に対する認否
認める。
四 抗弁
被告が原告に対して農地の買受適格者である旨の証明をしなかったのは、原告において、農地の取得計画や所得後の利用計画等の点につき釈然とせず、農地取得後において原告みずから当該農地を耕作すると認められなかったためである。
五 抗弁に対する認否
否認する。被告が適格証明を出さなかったのは、原告が町の進める減反政策に協力しなかったことと、一の宮町農業委員会の事務局長が適格証明書交付の手続について無知であったためである。
第三証拠《省略》
理由
一 原告の請求の趣旨・原因は前記のとおりであり、昭和六三年一〇月一五日付で被告から原告に対してなされた原告が農地の買受適格を有しない旨の通知(以下「本件通知」という。)をもって、行政事件訴訟法三条にいう「処分」であるとし、同条に基づいてその取消を求めているものと解されるところ、本件通知は単なる事実上の措置にすぎず、直接原告の権利の変動に影響を与えるものでもなく、これを到底「処分」と認めることが出来ないばかりでないうえ、たとえ、本件通知が同条にいう「処分」であるとしても、原告が求めた農地買受適格証明は、熊本地方裁判所宮地支部において同月一七日から同月二四日の間になされる入札期日において要求されるものであることは当事者間に争いのないものであるところ、右入札期日は既に徒過したのであるから、もはや右買受適格証明を求める意義は失われたものであり、本件通知の取消によって回復すべき法律上の利益は消滅したと言うほかない。
二 よって、その余の点につき判断するまでもなく、本件訴えは不適法なものであるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 足立昭二 裁判官 大原英雄 喜多村勝德)